この記事は、レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の違いや、レビー小体型認知症の症状の要点についてまとめています。
レビー小体型認知症とは
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の違い
認知症の中で一番多い原因はアルツハイマー型認知症で、統計にもよりますが、2番目あるいは3番目に多い原因がこのレビー小体型認知症です。レビー小体型認知症という名称は比較的歴史が浅く、1995年に提唱されました。レビー小体型認知症患者さんでは、脳の神経細胞の中に、レビー小体と呼ばれる構造物が確認されます。この構造物を初めて見つけて報告した、フレデリック・レビーという神経学者の名前がその由来です。
アルツハイマー型認知症との共通点は、どちらも神経細胞が徐々に変性して死滅していく疾患ということです。このような疾患を神経変性疾患と言います。本質的な部分での相違点は「アルツハイマー型認知症は、脳にリン酸化タウという蛋白質とアミロイドという蛋白質が蓄積する」のに対し、「レビー小体型認知症は、脳にαシヌクレインという蛋白質が蓄積する」という点です。上述のレビー小体は、このαシヌクレインを主要構成成分としています。
アルツハイマー病と同様に、まだ認知機能が全く落ちていない段階からレビー小体が脳内に蓄積していき、その後数年~十数年以上かけて少しずつ認知機能が落ちてゆき、やがてレビー小体型認知症に至る疾患と言えます。
なお実際の臨床では、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症が併存し、いずれの蛋白質も並行して蓄積している例は少なくありません。
レビー小体型認知症の代表的な症状と診断基準
レビー小体型認知症は、主症状が認知機能障害だけでなく、睡眠障害、運動障害、自律神経障害、精神障害と多岐に及ぶ疾患です。いずれも非常に特徴的な症状であり、これらの症状がみられるどうかで、臨床的に診断できるような診断基準が作成されています。この診断基準は2017年に改訂され、改定前の基準よりもレビー小体型認知症を見逃しにくくなっています。
厳密に言えば、レビー小体型認知症と確定診断するためには、お亡くなりになった患者さんの脳を解剖して、レビー小体を確認する必要があります。しかしそれでは生前の診療中は診断できないことになってしまうため、このような臨床診断基準というものが存在しています。
この改訂診断基準では「必須症状 (中心的特徴)」を前提として、「中核的特徴」のうち2つ以上認められればprobable DLB (ほぼ確実にレビー小体型認知症)と診断します。もし「中核的特徴」が1つしか認められなくても、「指標的バイオマーカー」が1つ以上認められればprobable DLB (ほぼ確実にレビー小体型認知症)と診断できます。ただ「中核的特徴」が1つ、あるいは「指標的バイオマーカー」が1つ以上認められるだけではpossible DLB (レビー小体型認知症の疑い)としか診断できません。
Probable DLB (ほぼ確実にレビー小体型認知症)
- 「必須症状 (中心的特徴)」+「中核的特徴2つ以上」
- 「必須症状 (中心的特徴)」+「中核的特徴1つ」+「指標的バイオマーカー1つ以上」
PossibleDLB (レビー小体型認知症の疑い)
- 「必須症状 (中心的特徴)」+「中核的特徴1つ」
- 「必須症状 (中心的特徴)」+「指標的バイオマーカー1つ以上」
必須症状 (中心的特徴)
進行性認知機能障害
- 正常な社会的・職業的機能に支障を来す程のものとされます。
- 早い時期には著明な、または持続性の記憶障害は必ずしも起こらなくてもよいとされますが、通常は進行と共に明らかになってきます。
- 注意や実行機能や視空間能力のテストでの障害が特に目立つこともあります。
中核的特徴
認知機能の動揺
- 比較的急性に起こることが多い症状です。ご家族様が”急に認知症が進んだ” あるいは ”調子のいい時と悪い時の差が激しい” と表現した際に疑います。患者さん自身では気づきにくい症状です。
- 1日の中で周期がみられ、数分から数時間の単位で変化がみられる場合は分かりやすいと言えます。一方で、数週から数ヶ月におよぶ長期の周期で変動が見られることもあります。
- CFI (Cognitive fluctuation inventory)という評価スケールで、ある程度定量化できます。
- この症状だけが目立つ場合は、せん妄や、他の意識障害を呈する病気などを鑑別していく必要があります。
幻視
- 繰り返し、具体的な内容の幻視が現れることが特徴です。幻視は幻覚の一種です。視覚にまつわる幻覚のことを幻視と言います。
- 小動物(猫やネズミなど)や虫、人間が家の中に見えることが多いです。いずれの場合も通常は発声は伴わないことが多いです。そのため、”じっとそこにいる”などと仰ることが多いです。患者さん自身が自覚しやすい症状で、”自分でもおかしいと思っている”と理解されている方も少なくありません。飲食物に虫が見えてしまうと、食欲低下・食事拒否の原因になりえます。また、配偶者の傍に若い異性が見えてしまうと、浮気を疑って夫婦関係が悪化することもあります。
- 幻視は、錯視 (壁や天井の染みが人の顔に見えたりする現象)と連続性があるという指摘もあります。その錯視の程度を評価する神経心理検査として、ノイズ・パレイドリア・テスト (Noise pareidolia test;NPT) があります。
- レビー小体型認知症患者さんでは、聴覚にまつわる幻覚である幻聴や、触覚にまつわる幻覚である体感幻覚などがみられることもあります。ただし、幻視を伴わない幻覚は診断基準にはカウントしません。
パーキンソン症状
- パーキンソン症状とは、いわゆるパーキンソン病でみられる運動症状のことです。
- 手足が震えたり、体の動きが遅くなって、転びやすくなります。
レム睡眠行動異常症
- レム睡眠期に比較的鮮明な夢を見て、叫びだしたり、手足を動かしたりすることが特徴的な症状です。夢の内容は、災害にあったり、何かに追いかけられて必死で逃げるなど、本人にとって好ましくない内容のことが多いとされます。重症だと、ご本人がベッドから落ちたり、起こそうとしたご家族が殴られてしまうこともあります。
- 他の症状に先行して、数年以上もレム睡眠行動異常症だけが目立ち、そのあとに他の症状を伴う例も珍しくありません。
- RBDSQ-J (RBD screening questionnaireの日本語版)という質問表を用いて、この症状のスクリーニングが可能です。
支持的特徴
レビー小体型認知症でよくみられる症状ですが、レビー小体型だけに特徴的とまで言い切れない症状です。
指標的バイオマーカー
SPECTまたはPETで示される基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下
- 2014年に、イオフルパン(商品名 ダットスキャン(DaTSCAN)静注)が発売されました。
本薬剤はドパミントランスポーターに高い親和性を持ち、短時間でドパミントランスポーター分布密度を反映したSPECT高画質画像を得ることができます。
特に、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の鑑別の際に役立つ検査です。 - なおレビー小体型認知症のほか、パーキンソン病や進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症などの神経変性疾患でも集積が低下します。
したがって、この画像検査だけで、これらの鑑別を行うことはできません。 - 血管性パーキンソン症候群では、軽度異常か正常に近いことが多いです。
MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下
- ノルエピネフリン(NE)の生理的アナログである、123I-メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)を用いて、心臓交感神経の障害を判定する核医学検査法です。
従来は虚血性心疾患をはじめとした種々の心疾患の病態評価に用いられていました。
その後、レビー小体型認知症を含むレビー小体病における心臓交感神経の変性・脱神経を反映して、レビー小体型認知症やパーキンソン病において、特異的にMIBGの集積が低下する事が明らかとなりました。 - 多系統萎縮症、大脳皮質、本態性振戦、血管性パーキンソン症候群などでは集積が低下しないため、鑑別に有用です。
睡眠ポリグラフ検査による筋緊張低下を伴わないレム睡眠の確認
- 睡眠ポリグラフ検査とは、眼球運動やいびき、脳波、心電図や筋電図、動脈血酸素飽和度などの生体活動を、一晩にわたって測定する検査です。 睡眠時無呼吸症候群の評価などでよく行われる検査ですが、この検査によって、筋緊張低下を伴わないレム睡眠が確認できれば、レビー小体型認知症の疑いが強くなります。
参考文献
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