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パーキンソン病とパーキンソン症候群の違いについて

この記事は、パーキンソン病とパーキンソン症候群の違いについて、まとめています。

パーキンソン病とは

パーキンソン病の特徴

パーキンソン病は進行性の神経変性疾患です。中枢神経系のドーパミン作動神経細胞の一部が変性し、その結果として、ドーパミンの欠乏による運動制御の異常や自律神経機能の異常が生じます。

病気の進行に伴って、振戦、筋肉のこわばり、バランス障害、歩行困難、表情の減少などが見られ始めます。人によって、唾液の増加による流涎、便秘、不眠、性的機能障害などの症状も伴うことがあります。パーキンソン病は、広義の運動障害のみならず、自律神経障害、精神症状、睡眠障害など、さまざまな症候を呈する疾患です。そのため、治療においても、どの症候をどの程度改善させ、どのような副作用なら許容できるかなどを、個別の患者さんごとに十分相談しながら対応していく必要があります。

パーキンソン病の原因は、ほとんどが不明であり、遺伝的な要因や環境的な要因の関与が考えられています。遺伝的な原因によるパーキンソン病は、遺伝子異常によって発生することがあります。環境的な要因によるパーキンソン病は、有害物質にさらされたことが原因となる場合があります。

パーキンソン病の診断には、MDS診断基準を基本としつつ、神経学的評価、脳画像検査、抗パーキンソン病薬の反応性などから、総合的な判断が求められます。一見パーキンソン病のように見える疾患はいくつもあり、鑑別を要することもあります。特に医療過誤の観点では、薬剤性パーキンソン症候群との鑑別が問題となることが多いように感じています。

薬剤性パーキンソン症候群

薬剤性パーキンソン症候群は、ある種の薬剤の副作用として現れる症状です。薬剤性パーキンソン症候群は、主に抗精神病薬や制吐剤などの薬剤の使用によって引き起こされます。このため、薬剤性パーキンソン症候群の治療には、原因となる薬剤を中止することが最優先となります。特に抗精神病薬の中には、パーキンソン病に対して”禁忌”とされている薬剤も少なくありません。臨床医には、薬剤の添付文書に沿った、適切な薬剤使用が求められます。

薬剤性パーキンソン症候群の症状は、薬剤の投与量や種類によって異なり、症状の程度は個人差があります。また、この症候群には、薬剤以外にも、化学物質や農薬などの毒物によって引き起こされるものもあります。

パーキンソン病と薬剤性パーキンソン症候群を鑑別するポイント:

症状の始まり方

薬剤性パーキンソン症候群の場合、薬物を服用し始めてから症状が出現するため、症状の始まり方が急激であることが多いです。
一方、パーキンソン病は、徐々に進行する神経変性疾患であるため、症状がゆっくりと進行することが多いと言えます。

症状の特徴

薬剤性パーキンソン症候群の場合、通常は、同時期に四肢に症候が見られ始める為、いわゆる左右差がみられにくいです。
一方、パーキンソン病では、しばしば身体の片側に始まり、次第に両側性になっていくことが多いという特徴があります。

薬剤による影響

薬剤性パーキンソン症候群の場合、原因薬物の投与中は症状が進行していくことが多いですが、薬物の減量や中止によって症状が軽減されることもあります。
一方、パーキンソン病の場合、抗パーキンソン病薬による治療によって一時的に症状が改善することはありますが、本質的に進行性の疾患であるため、徐々に症状は顕在化していきます。症状の進行に伴って、抗パーキンソン病薬の増量が必要になることが多いです。
症状や薬剤の反応に関して、パーキンソン病と薬剤性パーキンソン症候群の鑑別は、神経学的な評価と慎重な医師の判断が必要です。

検査の特徴

薬剤性パーキンソン症候群とパーキンソン病を鑑別する有用な方法の一つに、MIBG心筋シンチグラフィがあります。これは交感神経系の機能を評価する検査です。パーキンソン病では、交感神経系の障害によりMIBGの取り込みが低下し、MIBG心筋シンチグラフィで心筋への集積が乏しくなります。一方、薬剤性パーキンソン症候群では、薬剤の影響によりMIBGの取り込みが低下することがありますが、通常、パーキンソン病よりもMIBGの取り込みは比較的良好です。

以上から、薬剤性パーキンソン症候群の場合、一般にMIBG心筋シンチグラフィによる集積低下はみられません。
一方、パーキンソン病の場合、病期が進むほど、集積が低下していきます。そのため、両者の鑑別の参考になります。

MIBG心筋シンチグラフィのみでは限界はあるものの、薬剤性パーキンソン症候群とパーキンソン病の鑑別に有用な検査です。診断には、MIBG心筋シンチグラフィと併せて、臨床症状、薬剤の服用歴、血液中の薬剤濃度などを総合的に評価する必要があります。

血管性パーキンソン症候群

血管性パーキンソン症候群は、脳血管疾患(脳卒中、脳出血、脳血栓症、脳血管狭窄症など)によって引き起こされるパーキンソン症候群です。脳の特定の領域が脳血管疾患で障害された結果、振戦、寡動、筋強剛、歩行障害などの症状が現れます。

パーキンソン病と血管性パーキンソン症候群を鑑別するポイント:

症状の始まり方

血管性パーキンソン症候群では、全体に上肢より、歩行障害を主とする下半身の症状が中心(lower body parkinsonism)となりやすいです。また、症状の左右差が少なく、ときに急性に発症します。
一方、パーキンソン病は、症状が徐々に進行することが多いです。

症状の特徴

血管性パーキンソン症候群では、パーキンソン病と比較して歩行障害や姿勢の不安定性がより重度であることが多いです。また、血管性パーキンソン症候群では、初期から認知機能の障害が現れることが多いです。
一方、パーキンソン病では、初期には認知機能が保たれていることが多いです。パーキンソン病で初期から認知機能の低下がみられる場合は、レビー小体型認知症と診断される可能性があります。

薬剤による影響

血管性パーキンソン症候群の場合、脳血管障害の進行によっては病態が進行していくことが多いですが、大きな変化なく推移することもあります。治療には、脳血管疾患の治療やリハビリテーションが中心となりますが、レボドパを含む抗パーキンソン薬が使用されることもあります。
症状や薬剤の反応に関して、血管性パーキンソン症候群とパーキンソン病の鑑別は、神経学的な評価と慎重な医師の判断が必要です。

検査の特徴

血管性パーキンソン症候群とパーキンソン病を鑑別する有用な方法の一つに、頭部MRI検査があります。頭部MRI検査を行うと、血管性パーキンソン症候群では、脳梗塞や脳出血の影響が見られることがあります。一方、純粋なパーキンソン病では、一般にMRI検査で目立った異常所見はみられません。

おわりに

パーキンソン病と、薬剤性パーキンソン症候群や血管性パーキンソン症候群の違いについて、まとめました。ただし、実際の臨床では、パーキンソン病の患者さんに抗精神病薬を用いざるを得ないこともありますし、さらにその患者さんが脳血管障害も伴っていることもあります。これらの病態が複合的に存在するとき、どの症候がどの要因によるものかを推定するのは、専門医の知識と経験が求められます。治療の優先順序を検討したうえで対応していく必要があります。

参考文献

  • パーキンソン病診療ガイドライン2018

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