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「びまん性軸索損傷(DAI)」は中長期的な脳萎縮で指摘できる

交通事故後、高次脳機能障害(記憶力・注意力の低下、感情抑制が効かないなど)の後遺症に苦しんでいるにもかかわらず、保険会社から「急性期のMRI検査で異常がなかった」という理由で、適切な後遺障害等級が認められないケースは少なくありません。特に、脳の広い範囲に微細な損傷が生じる「びまん性軸索損傷(DAI)」は、急性期のMRI画像(特に一般的なT2*強調画像やSWI画像)で必ずしも明確な異常として描出されないことがあり、急性期に異常所見がみられたとしても、経時的に消失していく患者さんも少なくありません。

しかし、医学的には、一見異常信号が消失したように見えてもその後の時間経過とともに、損傷した軸索が変性・脱落し、中長期的に脳全体のボリュームが減少する「脳萎縮」が進行することがあります。本コラムでは、脳神経内科専門医の視点から、急性期画像が正常であったDAI患者において、中長期的な脳萎縮を医学的に立証し、後遺障害認定へ繋げるためのポイントを解説します。

【専門医として鑑定した事例】

  • 交通外傷によって意識障害を呈し、救急搬送されたある事例では、急性期にT2*強調画像やSWIのMRI画像で軽度の信号低下を認めたものの、速やかに信号異常は消失していました。高次機能障害は明らかでしたが、当初は後遺障害を保険会社に認定してもらうことはできませんでした。主治医の診療録に「経時的に、MRIで異常信号は正常化した」と記載されていた為です。

  • 患者さんや支えるご家族が、どれだけ従前のように社会生活が営めなくなったかを主治医に伝えても、とりあっていただけなかったことが診療録から読み取れました。このようなケースは珍しくありません。このようなケースが問題となるのは、本事例のように、信号異常の推移しか評価していないことがあるためです。受傷直後と、数か月~数年後に撮像された頭部MRIを丹念に比較すれば、顕著な脳萎縮を呈していることもあることに注意が必要です。

■ 医学的解説:びまん性軸索損傷(DAI)の病態と急性期画像の限界

DAIは、頭部に強力な回転力が加わることで、脳の白質にある軸索(神経細胞の突起)が、広い範囲にわたって引き千切られるように損傷する病態です。急性期のMRI、特に微小出血に鋭敏なT2*強調画像やSWIは、DAIに伴う点状出血を捉えるのに有用ですが、すべての軸索損傷に出血が伴うわけではありません。むしろ、出血を伴わない「非出血性DAI」の方が頻度が高いという報告もあります。したがって、「急性期MRIで微小出血がなかった=DAIではない」と断定することは、医学的に誤りです。また同様に、「急性期MRIでの微小出血が速やかに消失した=DAIが治癒した」と断定することも、医学的に誤りである可能性が充分あります。

■ 法的判断への影響:中長期的な「脳萎縮」の医学的意味と証拠としての価値

後遺障害認定において、保険会社や自賠責は、後遺症の原因となる「器質的な病変(脳の実際の傷)」の客観的な証拠を重視します。急性期の画像が正常であった場合や、速やかに信号異常が消失した場合は、この「傷」を証明することが非常に困難になります。 ここで重要になるのが、中長期的な脳萎縮の鑑定です。損傷した軸索は、時間経過とともに「変性(変質して機能しなくなる)」し、最終的には「脱落(消失)」します。この変性・脱落した軸索のボリューム分、脳全体のボリュームが減少します。これが脳萎縮です。 具体的には、発症から数ヶ月、数年経過した後のMRI画像を撮影し、以下の点を評価します。

  1. 脳室の拡大:脳の内部にある空洞(脳室)が、周囲の脳組織の減少によって拡大する。

  2. 脳溝の深化:脳の表面にある溝(脳溝)が、脳組織の減少によって深くなる。

■ 専門医の鑑定の重要性:画像読解と後方視的解析の難しさ

中長期的な脳萎縮の評価は、容易ではありません。単に「萎縮がある」と指摘するだけでは、高齢者であれば加齢による変化、あるいは他の原因(アルコール、精神疾患など)と区別がつきにくいと反論される可能性があります。 したがって、専門医による、以下のような緻密で俯瞰的な鑑定意見書が不可欠です。

  • 「時間経過」の整合性:交通事故前の画像があれば理想的だが、ない場合でも、急性期の画像と中長期の画像を比較し、事故後に萎縮が「進行」したことを医学的に推認するアプローチ。

  • 「萎縮のパターン」や「神経心理学検査」の評価:加齢による萎縮を示す場合、その萎縮に応じた認知機能の変化を示します。DAIによる萎縮は、一般的な認知症とは異なる萎縮のパターンを示し、高次脳機能障害の変化も、一般的な認知症とは異なるものです。そのパターンの違いを医学的にどう指摘するかが、専門医の鑑定が必要な理由となっています。

交通事故後の高次脳機能障害は、患者の人生を大きく変える重篤な後遺症です。急性期のMRIが一見正常であったり、速やかに異常信号が消失したからといって、決して後遺障害認定を諦める必要はありません。損傷は、目に見えない形で確実に脳に刻まれており、それは中長期的な脳萎縮という客観的なサインとして、後から現れることがあるからです。保険会社や保険会社の顧問医による、断片的な画像所見のみに基づいた判断に対し、臨床医としてのリアルな知見と、膨大な画像データから「見落とされた傷」を見つけ出す専門医の鑑定意見書は、強力な反証となります。 高次脳機能障害の後遺症を保険会社に認めてもらえず苦しんでいる患者さん、そしてその患者さんの権利を守るために戦っている弁護士の先生方。当方では、初期のカルテスクリーニングから、医学的に妥当なストーリーを構築するための精密な鑑定意見書の作成まで、先生方の訴訟戦略を強力にバックアップいたします。

 

高次脳機能障害において、神経心理検査結果やMRI等の画像検査結果との因果関係を立証するためには、専門的かつ膨大なカルテや看護記録を読み解き、一連の診療プロセスを「医学的に妥当なストーリー」として論理的に再構築する作業が不可欠です。

しかし、高度な専門用語で記載された資料の中から、「見落とされた重大なサイン」や「標準的医療からの逸脱」を見つけ出したり、あるいは「一見過失に見えても、当時の状況下では回避困難な合併症であった」ことを示す決定的な根拠を抽出し、保険会社に伝わる形に翻訳することは容易ではありません。

「この手元にある記録だけで、高次脳機能障害を客観的に主張できるだろうか?」 そう迷われた際は、ぜひ一度、臨床の最前線を知る脳神経内科専門医にご相談ください。

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