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遺言鑑定:”認知症”かどうかを判断する、3つの診断基準について

はじめに

認知症の3大原因として、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症が知られています。そのため、この3つの認知症を合わせて3大認知症と表現しています。3大認知症に次いで多い認知症が”前頭側頭型認知症”で、この前頭側頭型認知症を含めて4大認知症とも呼ばれています。

これらの疾患の共通点として、いずれも”●●認知症”という疾患名が付いている事です。では、そもそも「認知症」とはどういうものでしょうか?

今回は、この「認知症」とはどう定義されるものかをお伝えしていきます。

認知症の診断基準

認知症は、決して「専門家がそう言ったから」という理由で診断されるものではありません。診断される際には必ず客観的根拠が必要ですし、診断基準に沿って診断されたかどうかが大事です。この点はいわゆる身体疾患と同様ですし、遺言鑑定の際にも極めて大事な点になります。

以下、代表的な認知症の診断基準について述べていきます。それぞれ少しずつ記載内容は異なるものの「せん妄や精神疾患によらず、複数の認知機能低下によって日常生活に支障を生じた状態」と要約することができます。

実際の遺言能力鑑定においては、提出いただいた資料に応じて、どの診断基準で判断するのがもっともふさわしいかを、個別の事案に応じて判断しています。

ICD-10に基づく診断基準

ICD-10とは、世界保健機関による国際疾病分類第10版を指します。ICD-10では認知症は「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など多数の高次脳機能障害からなる症候群」とされています。以下にポイントを要約します。

1. 以下の各項目を示す証拠が存在する。これらにより、日常生活動作や遂行機能に支障を来す。
1)記憶力の低下
2)認知能力の低下

2. 周囲に対する認識が、その症例をはっきりと証明するのに十分な期間、保たれている事(=すなわち、意識混濁がない事)。
せん妄のエピソードが重なっている場合には認知症の診断は保留する。

3.次の1項目以上を認める
1)情緒易変性
2)易刺激性
3)無感情
4)社会的行動の粗雑化

4.上記の症状が明らかに6カ月以上存在していること。

NIA-AAに基づく診断基準

NIA-AAとは、米国国立老化研究所/Alzheimer病協会ワークグループを指します。NIA-AAの診断基準では、記銘記憶障害、遂行機能低下、視空間認知障害、言語障害を同等に扱い、さらに行動障害を含め、アルツハイマー型認知症以外の認知症疾患にも対応した診断基準となっています。以下にポイントを要約します。特に特徴的なのは「5」の項目です。

1. 仕事や日常生活の障害

2. 以前の水準より遂行機能が低下

3. せん妄や精神疾患ではない

4. 病歴と検査による認知機能障害の存在
1)患者あるいは情報提供者からの病歴
2)精神機能評価あるいは精神心理検査

5. 以下の2領域以上の認知機能や行動の障害
1)記銘記憶障害
2)論理的思考、遂行機能、判断力の低下
3)視空間認知障害
4)言語機能障害
5)人格、行動、態度の変化

DSM-5に基づく診断基準

DSM-5とは、米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第5版を指します。DSM-5では認知症は、「複雑性注意、遂行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認知の6領域のなかから1つ以上の認知領域で有意な低下が示されること」とされています。。以下にポイントを要約します。

1. 1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において、以前の行為水準から有意な認知の低下があるという証拠が以下に基づいている。
1)本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の低下があったという懸念、および
2)標準化された神経心理学的検査によって、それがなければ他の定量化された臨床的評価によって記録された、実質的な認知行為の障害

2. 毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する(すなわち、最低限、請求書を支払う、内服薬を管理するなどの、複雑な手段的日常生活動作に援助を必要とする)。

3. その認知欠損は、せん妄の状況でのみ起こるものではない。

4. その認知欠損は、他の精神疾患によってうまく説明されない(例:うつ病、統合失調症)

「認知症」であるかを診断した後について

個別の症例において、「認知症」であることが否定されれば、その時点で遺言能力は保たれている可能性が高くなります。
一方で、「認知症」と診断された場合は、その症例がアルツハイマー型認知症なのか、レビー小体型認知症なのか、血管性認知症なのか、プリオン病やパーキンソン病などの別の病因なのかを見定めると同時に、その認知症の程度を評価していくことになります。遺言書の内容と認知機能の程度を比較することで、遺言能力の有無を評価していきます。

遺言能力の鑑定は、まず「認知症か否か」からスタートします。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

認知症疾患診療ガイドライン 2017

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