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血管性認知症は6つの病型でとらえる

はじめに

認知症の原因で、統計にもよりますがアルツハイマー型認知症に次いで多いとされているのが、血管性認知症です。遺言能力の有無が問題となる場面も多い疾患の一つに位置付けられます。従って、血管性認知症の典型的な進行を知ることは、遺言能力の鑑定を行う際も非常に重要になってきます。
今回、Kalariaらによって作成された血管性認知症の病型分類についてご紹介いたします。

血管性認知症とは

血管性認知症とは、脳血管障害に関連して生じることで定義される認知症です。脳の血管は、脳の隅々まで細かく枝分かれして血液を送っています。脳の血管が詰まると、その先に血液が送られなくなります。また、脳の血管が破けると、その破けた場所に血液が溜まります。その結果、脳が裂けたり圧迫されたりしてしまいます。これらの病態の結果、脳が障害されてしまって認知機能が落ちていくと、血管性認知症となります。

血管性認知症との対比として、変性性認知症という用語があります。変性性認知症とは、アルツハイマー病などに代表される、脳が徐々に萎縮していくような認知症のことです。変性性認知症の多くは、特定のたんぱく質の蓄積で定義されるという特徴があります。

変性性認知症は、個人差はあるものの、ある程度一定の病歴を辿ることが多く、典型例ではどのような症候から始まり、次いでどのような症候が目立ってくるかなどのパターンが定まっているものです。

一方で、血管性認知症は非常に臨床的な概念と言えます。脳血管のどこが障害されるかによって、症候は大きく異なります。従って、脳の機能解剖を知っていないと、症候と病態を結び付けて考えることができません。

アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症をあわせた4大認知症の中で、血管性認知症だけが”変性疾患ではない”という特徴があります。

血管性認知症の症状の特徴

脳は、脳内の場所ごとに様々な機能を司っています。従って、脳の血管のどのあたりに問題が生じたかによって、障害される脳の場所は様々となります。脳機能の多彩さとも関係していますが、「ある能力は低下しているけれども、別の能力は比較的保たれている」というように、まだら状に能力が低下することも血管性認知症の特徴です。

そのため、どこの血管にどのような問題が生じたかによって、出てくる症状は様々と言えます。この点が、比較的画一的な症状・経過を示す”変性疾患”との大きな違いです。また、脳卒中を起こすたびに、階段状に悪化していく経過を辿りやすいことも、変性性認知症には見られない特徴です。

この血管性認知症の中でも、比較的よくみられる特徴的な症状をご紹介します。

歩行障害、転倒

  • 血管性認知症では、比較的病初期から転びやすくなることが多いです。
  • 通常、アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症では初期に見られない症状であり、早い段階でよく転ぶようになった場合は、血管性認知症を疑うきっかけになります。ただ、レビー小体型認知症でも初期から転びやすくなることはあるため、この症状だけで原因を断定できるわけではありません。

排尿障害

  • 排尿したいという感覚を生じてから、トイレに間に合わずに尿失禁してしまうことがあります。
  • この症状も、通常、アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症では初期には見られません。

構音(こうおん)障害、嚥下(えんげ)障害

  • 構音障害とはしゃべりにくくなる症状のことで、嚥下障害とは飲み込みにくくなる症状です。
  • とくに嚥下障害では、固形物よりサラッとした液体を飲み込むことから苦手になりやすいです。お茶やお味噌汁ではむせるけれども、ご飯はしっかり食べられるという形で始まりやすいです。
  • これらの症状も、通常、アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症では初期には見られません。

意欲の低下

  • アパシーとも言われる症状です。
  • 以前ならば何らかの興味を示していた物事に対して、感情や興味を示さなくなる症状のことです。
  • さらに、周囲の人間や環境への関心も薄れていき、他人との交流も乏しくなっていくことが多いです。

感情失禁

  • 些細なことですぐに涙ぐんだり、泣き出してしまったりすることです。

Kalariaによる血管性認知症の病型分類

脳血管性認知症は、どのような脳血管が、脳のどの箇所で、どのように障害されているかで、病型分類が提唱されています。さらに他の変性性認知症を合併しているかどうかも大きなポイントです。今回は、Kalariaによる病型分類を紹介いたします。この病型分類が重要な理由は、その病型ごとに症候や経過に特徴があるからです。

遺言鑑定の際にも、その患者さんがどのような病型であるかを示すことができれば、鑑定内容の説得力が非常に高まります。

多発梗塞性認知症

  • 大血管の閉塞により大小の脳梗塞が多発し、病巣に応じた認知機能障害を呈します。
  • 病変の主体は脳皮質にあります。
  • 血管性認知症の2-3割を占めるとされます。
  • 新しい脳梗塞巣が出来るたびに、階段状に悪化するという経過を辿りやすい病型です。
  • アルツハイマー型認知症と対比した血管性認知症の特徴を記した、Hachinskiの虚血スコアという評価方法は、主にこの病型を想定しています。

小血管病性認知症

  • 最も多い病型で、脳血管性認知症全体の半数程度を占めます。
  • 病変の主体は皮質下で、無数の小血管病変を背景として発症します。
  • 多発ラクナ梗塞でも生じますが、特に皮質下白質病変が目立つタイプをBinswanger病とも呼びます。
  • 緩徐進行性の経過をとる点は、アルツハイマー型認知症などの変性性認知症と一見似ています。ただしその場合でも、歩行障害や嚥下障害などが初期から見られやすいといった、アルツハイマー型認知症とは異なる特徴が見られやすいです。

戦略的部位の単一病変による認知症

  • 認知機能に重要な部位の血管障害で生じる病型です。
  • 代表的な部位は海馬、視床、角回などです。
  • 病変そのものが小さくても、認知機能において重要な部位であるため、突如として重度の認知機能低下を呈することもあります。

低灌流性認知症

  • 内頚動脈の高度狭窄、心不全、重度の低血圧などを背景として、血管支配の境目(分水嶺)に生じやすいです。
  • 脳全体の循環不全や低酸素状態によって、血管性認知症を呈する病型です。

出血性血管性認知症

  • 脳出血とくも膜下出血に分けられます。他の病型が、基本的に脳の血管が詰まって脳虚血に陥ることで生じることと対比されます。

他の認知症との混合型

  • 血管性認知症に変性性認知症を合併したものです。
  • 合併した変性症に応じた脳萎縮を伴います。
  • 頻度としては、アルツハイマー型認知症との混合型が多いです。アルツハイマー型認知症と血管性認知症は共通の危険因子を持つことから合併しやすいことが知られています。

脳血管性認知症の診断における特徴

  • 脳解剖の知識をもとに、神経所見と画像所見、時系列の整合性を判断することが重要です。
  • 診断のポイントを言い換えると、以下の3点に要約されます。
    ①認知症がある
    ②画像上脳血管障害による病変がある
    ③認知症と画像所見との因果関係がある

脳血管性認知症の治療

脳血管性認知症の治療は、大きく、以下に分けられます。

抗血小板薬

  • 血液を固まりにくくする薬の一種です。
  • 血管性認知症の一次予防のための、抗血栓薬使用のエビデンスは乏しいとされています。
  • ただし、非心原性脳梗塞後の認知症予防のためには、抗血小板薬の使用が考慮されることもあります。

抗凝固薬

  • 血液を固まりにくくする薬の一種です。
  • 心房細動という不整脈を背景として、血管病変を来していると考えられる患者に限っては、適切な抗凝固療法が認知症予防に望ましいとされています。

生活習慣病への対応

  • 中年期の高血圧に対する降圧療法が望ましいです。
  • 禁煙が推奨されています。
  • 身体運動が推奨されています。
  • 中年期からの継続的な体重管理(肥満予防)が推奨されています。
  • 糖尿病のコントロールは、高齢者や認知症患者さんでは、低血糖を避けるためにHbA1cを7.0%未満にしないことが推奨されています。

参考文献

  • 認知症疾患診療ガイドライン2017
  • 糖尿病治療ガイド2018-2019
  • Kalaria RN, et al. J Neuro Sci, 226(1-2):75-80,2004.

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